1級建築士 学科試験
今年も1級建築士試験の時期がやってきた。
僕も数年前まで、この季節になると試験のことで頭を悩まされていた。
1級建築士試験を侮っていた僕は、会社の同期が1年目、2年目で次々と資格を取っていく中で、入社5年目まで、試験を受けることすらしなかった。5年目でようやく重い腰を上げたが、自動車運転免許くらいのイメージで臨み、1年目はあえなく撃沈した。そもそも、毎日実務で鍛えられているというのに、なぜ今更、筆記試験なぞ受ける必要があるのかと、試験そのものを小バカにしていた。
そうして中途半端な決意で臨んだがために、結果、学科をとるまでに2年かかった。
しかし、今でも学科試験はできるだけ省力で効率的にとるべきだと思う。他に学ぶことは仕事の中で、もしくは実生活の中であふれている。
資格を取り終えた僕が、もし今、再度立ち戻って受験することがあったとしたら、どのように効率的に勉強をするか、少し書いてみたいと思う。
1級建築士の概要
まずはじめに概要をおさらい。
1級建築士の試験は学科と製図の2段階で構成されていて、どちらも基本的にはマニュアル的な試験だ。しかし、応用問題も年々増えてきており、試験の難易度は徐々に上がりつつある、と言われている。
学科試験では5科目の試験が課される。試験科目は、「学科1:計画」「学科2:環境・設備」「学科3:法規」「学科4:構造」「学科5:施工」の5項目からなり、それぞれの項目でおよそ過半以上、全体で7~8割程度得点すれば通過となる。通年およそ20%弱が学科試験をパスし、不合格者のほとんどが、学科試験で涙をのむこととなる。
マニュアル的とは言え、膨大な知識を詰め込む必要があり、必要な勉強時間は1000時間以上とも言われる。毎日3時間勉強時間に割いたとしても、333日つまり丸1年勉強しつづけることが必要となり、独学で臨む人も学校に通う人も、年間通じてモチベーションの維持がけっこう大変だ。また、これだけの量の勉強をするとなると、勉強方法の差が直接点数に響いてくる。
製図試験では、6時間30分という限りある時間の中で、出題者の意図を読み、プランを組み立て、作図プレゼンテーションを仕上げるという過酷な作業を強いられる。専門的な知識も必要となるため、高度な試験といえる。製図試験では、6時間30分のうちに課題の施設についてA2用紙一枚分の図面とA3用紙1枚分の論述を提出する。建物用途と課題となる図面の種類は毎年異なり、学科試験の当日に発表される。
製図内容は建築計画と設計技術が4段階で評価され、そのうち最高評価のランクⅠの獲得者のみ製図試験の合格となる。通年およそ40%が製図試験を合格し、学科試験と合わせるとおよそ12%が1級建築士となる。
建築技術教育普及センターが発表しているデータによると、受験者は例年25000人程度いるため、毎年3000人の1級建築士が誕生していることになる。
この数字だけ見ると、一見そこまで難しくない試験のように感じるが、やはり国家試験とだけあって、一筋縄でいくものではない。どちらも易しくはないが、努力すれば必ず攻略できるようにできている。毎年12%程度の合格者がでていることから、8人に1人は合格できるよう、問題の難易度が設定されているのである。
法的な位置づけと実際
建築士法第3条に、一級建築士のみが設計できる建物用途が記されている。
端的に言えばこれらの建物の設計を許されているのが1級建築士ということになる。しかし最近は、設計士のみならずデベロッパーやメーカーの方も有資格者であることがあたり前になっており、「建築に携わる人が備えるべき一般教養」が1級建築士の資格としての実態となっている。お客さん(デベロッパー等)が資格を持っていて、設計者が持っていないなんてことはよくあることである。
1級建築士の学科試験は暗記試験
以上の概要を踏まえ、学科試験について。
1級建築士の試験とは、ずばり暗記試験だ。学科試験はもちろんのこと、製図試験も半分は暗記試験といって過言ではない。その理由について説明する。
学科試験は「環境・設備」や「構造」からは計算問題や力学の問題などが出題されるし、「法規」の項目では法令集を持ち込み、実際に法規を引きながら問題を解いていくが、結局のところ暗記が重要だ。これには2つの理由が挙げられる。
- 試験の60%程度は過去問から参照される。
- 法規は時間勝負となる。
1について、学科試験のおよそ6割は過去問と同様または類題が出題される、と言う。受験生は主に過去問を勉強し傾向と対策を練るのが普通だ。過去問が一定数を占める理由として、国家試験である以上、一定の合格者を出さなければいけない中で、勤勉に勉強している受験生を裏切らないためと考えられる。また出題者にも大きな責任がある中で、出題文を大きく変えることは、出題者にとってもリスクを背負うことにもつながると思われる。
僕は学科試験を過去に2度受けたが、どちらも過去問主体の出題傾向に変わりはなかった。過去問を完璧に暗記していれば、それだけである程度の得点は確保できるのである。
暗記をすることが合格への近道になる。
続いて2について、学科試験で多くの人の障壁となる項目の一つが法規だ。法規の試験では法令集を試験場に持ち込むことが出来るため、本番に法令集を引き回答を確認すると思っている人が多いと思うが、それは間違えだ。法規の問題も多くは過去問からの選択肢が用意されていて、これらは法令集を引くまでもなく正誤が判断できないと、時間不足となってしまう。本末転倒な気もするが、合否の差をつけるため、法規では時間の使い方で差がでるよう問題文が構成されているのだ。
もう一度言う。法規も出来る限りは暗記をする。
問題文のとらえ方
もう一つ、1級建築士の試験は、計画20問、環境設備20問、構造30問、法規30問、施工25問、の計125問で構成されるが、勉強するときには125点満点と考えずに、4択を分解し、125×4=500問として考えて勉強してほしい。(数えてみると500問とはキリがいい)
過去問は4択が必ずセットになるわけではなく、シャッフルされるし、問題文の内容も微妙に変わることが多い。4択は採点側の合理化のための都合であり、内容を理解するためには、時としてまやかしとなる。
過去問を1年分勉強すれば500問、7年分勉強すれば3500問インプットできることになる。
暗記だけではうまくいかない科目
そうはいっても最近の一級建築士試験は難しくなっている。暗記だけでなんともならない科目もある。細かく拾いだすときりがないが、内容をしっかり理解したほうが、点数につながりやすいのは、構造の力学問題と、法規の計算問題である。
構造の力学問題は高校生の物理の力学問題の延長のような問題である。理系の人は少し勉強すればクリアできると思う。一方、この手の問題にこれまで縁がない人は、塾や問題集などを通して勉強することが理解への近道になると思う。
法規については、建蔽率、容積率、高さなどが計算問題としてでることがある。これらの問題は、いちいち法令集を引いていたのでは、時間が足りなくなってしまう。解き方をマニュアル的に頭に叩き込んでおく必要がある。
ちなみに法規を独学で挑む人にはおすすめの参考書がある。一級建築士合格戦略 法規のウラ指導である。上述した建蔽率等の計算問題も、法規のウラ指導を1冊をマスターしておけば問題なく解けるようになる。
ちなみに、法規を学ぶ人は、最初に法令集にアンダーラインを引くことになる。塾がよく推奨するやり方は、とにかく機械的に線を引くことである。もう少し意味を理解しながら線引きを行いたい人は、法規のウラ指導を活用することをおすすめする。カテゴリー別に問題文が並べられ、問題を解きながらアンダーラインを引いていく本書の構成は、初心者にはわかりやすいものだと思う。
さらに僕は、法規のアンダーラインは、少し自己流アレンジを加えている。特別に一部お見せしよう。
- 重要なキーワードをオレンジマーカー
- 重要な説明文をオレンジアンダーライン(この時、オレンジラインだけ読んでいっても文章となるように線を引くのが重要)
- ~は除く、~以外の などの逆説的な文章は青字のアンダーライン
- 数字はすべてピンクマーカー
- 重要だが修飾的な内容はイエローマーカー(上記の画像には該当箇所がないが)
このルールでやれば、比較的見やすい法令集がつくれると思う。さらに問題を続けていく中で、必要な箇所に各々で追記していけば、段々と完成度が上がっていく。
暗記の仕方について
さて、では残りの科目の暗記はどうすれば効率的にできるのか。
多くの人が小学校から勉強を積み重ねる上で、千差万別の勉強方法を確立されてきたことと思う。音読したり、繰り返し書き出したり、はたまた歩きながら声を出す等々…。
でも、これらの方法、本当に暗記の最短距離と自信をもっていえるだろうか…?
これらの多くの方法は、1度の学習でできるだけ記憶を定着させる方法で、少ない情報量を覚えるときに比較的有効なものだと思われる。しかし、1級建築士試験での暗記すべき量は膨大になるため、上記の方法では時間をより多く浪費してしまうのではないか。
僕のおすすめはすばり、
問題文を1問1答で、ひたすら繰り返す。
この作業を何度も繰り返す。
これだけである。回答を書いたり図をなぞって確認したりは時間の無駄なので、基本的にやらない。
ずばり、
暗記とは覚えることの訓練ではなく、思い出すことの訓練である!
『千と千尋の神隠し』に登場している銭婆も言っていた。「一度あったことは忘れないものさ。思い出せないだけで…」と。
表面上忘れていたとしても記憶の奥底には蓄えられている。覚える訓練ではなく、何度も繰り返し思い出す訓練をすることが、記憶を脳の奥底から浮かび上がらせ、徐々に常用する記憶としていくことになる。
大切なことは沈まないように覚えることではなく、沈んだ記憶を浮上させる訓練を繰り返すことである。
そのためには、「回答がすぐ見れるテキストを数分眺めつづける」よりも、「回答を問うてくる問題文を何度も繰り返し解き、思い出す訓練する」ほうがより短い時間で確実に暗記ができる。
ただ、この方法には、新しい情報を引き出しては定着させ、引き出しては定着させ、とひたすら繰り返すため、集中力と根気が必要となる。
暗記にかける時間
記憶を定着させるために、僕が思うには過去問7年分程度を7回繰り返し行えば、ある程度確度が高く暗記ができると思う。
1年分は500問、7年分で3500問、7回繰り返すと24500問。1問に平均3分かけるとして、73,500分。時間にして1,225時間。どうだろう。冒頭に述べた必要な勉強時間、1,000時間に近い数字が出てきた。
慣れてくれば、1問は30秒以内での回答が可能となるだろう。ただ、環境設備や構造には内容を理解するのに時間を要する問題もあるため、そういった内容と押しなべて、1問3分として、大きくは外れていないと思う。
最近では、1問1等式の参考書やアプリも出てきている。それらを有効活用すれば、さらなる勉強の効率化が可能となる。
これができれば学校なぞ通う必要はなく、適切な参考書があれば独学で十分合格できる。(ちなみに僕は学科は学校には行っていない。)
改めて学科試験の攻略法
最後に繰り返しとなるが、重要なのは繰り返し暗記の訓練をするということである。
1級建築士の試験は、合格すれば、1級建築士としての必要な資質がすべて備わるわけでは、決してない。むしろ、世界に名を馳せる建築家でも無資格の人はいる。
改めて学科試験とは、建築家の最低条件として、これくらいのことはわかってて当然だよね。と、常識が問われているのだな、と理解したいと思う。
そして、この記事を読んだ人には、是非、頑張って最短距離で合格をしてほしい。
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