炭酸水がおいしい。のどが渇いた時の爽快感もあり、空腹に対する満足感も得られてよい。一番は炭酸が強めのウィルキンソン。次点は南アルプス天然水のスパークリングレモン。
ところで炭酸水のペットボトルは緑茶のように凝ったパッケージのものが少ない。シェア数を見ると、炭酸飲料のシェア数はうなぎのぼりで、緑茶やミネラルウォーターに比べても多いのに、円柱をベースとした形状のものが多い。なぜだろう?
そんなことを考えていたら、スペイン、バルセロナの『トーレ・アグバール』という建築を思い出した。僕が好きな建築家の一人、ジャン・ヌーベル氏による高層建築物である。
トーレ・アクバールはそのフォルムから、「男性器」や「坐薬」と形容され醜悪な建物と言われることもある。でも僕はペットボトルを見ていてこの建物を思い出した。
ちなみにロンドンにある『30セント・メリー・アクス』という建物も同じようなフォルムを持つ。いろいろなところに形の相似性が見て取れる。偶然なのだろうか。
偶然じゃないとしたら、どんな理由があるのか…?スケッチしながら考えてみることにする。
様々なボトルの形の相似性が持つ重要な意味
自然界において、形の相似性は非常に重要な意味を持つ。
スケールを超えて相似性を持つ理由の1つは、背景に近しい物理法則などが働いていることがあげられる。例えば樹形/毛細血管/川の形状が似ていることは、流動系に対する合理化の結果によるものである。
もう一つは個体が成長するためにはスケールを超えて同じ仕組みを持つ必要がある。わかりやすい例でいえば、貝殻の成長はらせん形状により成り立っていて、らせんはミクロからマクロまで連続しながらも相似形を保つ。
ペットボトルや建物が成長することはないので、今回の似通った形は、何か等しい力が背後に働いているのではないか?と想い調べてみる。
ペットボトルの形のいろいろについて
まずはペットボトルから。
ペットボトルの形状は実は中身によって変わってくる。
飲み物をペットボトルにつめるときには、高温殺菌したり、無菌状態で入れたり、炭酸の圧力にたえられるようにしたり、いろいろな工夫がされていることがわかった。
ペットボトル(英語では通常、Plastic Bottleと呼ぶ)はPETボトル。ポリエチレンテレフタレートを原料とした、軽量安全な飲料容器です。
発明したのは化学者のナサニエル・ワイエス(*2)。デュポン史上、はじめてフェローの称号を手にした天才エンジニアです。彼は1967年から「炭酸水をガラスでなくプラスティック容器に入れられるか?」を考え始め、ついに1973年、開発に成功しその特許を取りました。
いろいろなサイトからペットボトルの形の相違についてまとめてみた。
耐熱用ボトル
- 高温殺菌処理を飲物を入れるため、高温にたえられる材質。
- 高温から冷えた際、空気の体積変化によりボトルが破断しないよう減圧吸収パネルがある。
- 飲口の白色が目印。
耐圧用ボトル
- 炭酸ガスの内圧に耐えるため円形の断面(円は中心からの距離が等しく圧力を等圧で受ける。)
- 底部はペタロイド形状(圧力に耐え、かつボトルが自立できる形。)
- 飲み口にはガス抜き用の縦溝がある。
無菌充填用ボトル
- 無菌状態で飲み物を充填する。(高温殺菌せず、炭酸などもいれない。)
- 薄く軽い材質でつくるため、強度を持たせるために溝やくぼみなどがある。
ペットボトルの形まとめ
ペットボトルのかたちは、それぞれの形状に明確な目的を持ち複数のバリエーションがある。
一方で、おおまかなフォルムはそれぞれ近しい形状をしている。キャップの汎用性だとか、売り場に置く際の棚効率だとか、そういった経済的な視点も大きく関係してそうだ。また当然のことながら使い勝手も形状に大きな影響を及ぼすこととなる。
以上からかたちを決める要因をまとめてみる。
大まかなフォルムを決める要因
- 使い勝手
- 収納性:売場・ストックでの陳列・収納効率
バリエーションをつくる要因
- 中身の種類:発泡するか、高温殺菌をするか
- デザイン性:種々の制約がかからない場合、商品イメージを体現する形
- リサイクル性、廃棄しやすさ(いろはすのボトルなど)
ワインボトルのかたちの持つ様々な意味
続いてワインボトルのかたちについて調べてみる。ワインボトルはペットボトルの形状と同じように、中身の違いもかたちに影響を及ぼすが、それ以外の要因もありそうだ。
かつてワインボトルの形状は、底が広く安定感のあるものが主だった。現在のように背が高く底面積に対して細長い形状になったのは、18世紀末の1790年代である。これはワインを船舶などで輸送する機会が増えたため、積載や貯蔵の利便性を重視した結果であると言われている。その一方、ワインの主産地であるフランスのボルドーやブルゴーニュでは、貯蔵環境やワイン自体の性質の違いに由来するそれぞれのワインボトルが形作られていった。また、ワインの産地が一目で分かるようにとあえて個性を残したボトルを採用している土地もある
ワインボトルについても、以下にまとめてみる。
ボルドー型
- フランスのボルドー地方のボトルでワインボトルの代表的な形。
- 渋みが強いボルドーのワインは、澱が注がれにくいよういかり肩の形をしている。
ブルゴーニュ型
- フランス東部のブルゴーニュ地方のボトル。
- 渋みが少ないので注ぎやすい、なで肩で安定した形。
- 傾けて互い違いに置くことで、収納効率があがる。
ライン型/モーゼル型
- ドイツのライン・モーゼル地方のボトル。
- 背の高いスリムな形が特徴。ライン地方では茶色のガラス、モーゼル地方になると薄い緑色。
アルザス型
- フランスのアルザス地方の背の高い細身のボトル。
- ドイツワインのボトルより、さらに細長いスマートな形で暗い緑色。
ボックスボイテル
- ドイツのフランケン地方特有のボトルの形。
- 「山羊の陰嚢(いんのう)」という意味。
- 皮製のワイン袋に真似てつくられたものとの説がある。
シャンパン型
- 内圧に耐えるため厚手のガラスで作られている。
ワインボトルの形まとめ
ワインボトルを決める要因は以下の点が挙げられそうだ。
生産地で使用するボトルの形状が決まっている場合だけでなく、生産者がワインのスタイルによって形状を使い分ける場合もあります。
まとめてみる。
- ボトルの中に入るワインの種類 : 発泡するか。澱の含有量、等。
- 産地の歴史とアイデンティティ
- 収納性(貯蔵庫の収納効率)
ペットボトル・ワインボトルのかたちを決める要因のまとめ
繰り返しになるが、まとめると以下のようになりそうである。
- ボトルの中に入る飲料の種類
- 歴史性・地勢
- 収納性
- 使い勝手
- デザイン性
- リサイクル性
ボトル型の高層ビル(トーレ・アグバール)の持つ特徴
トーレ・アグバールはワインボトルのような形状をしており、ここではその形状をボトル型と呼ぶことにする。
ボトル型の高層ビルはどのような特徴を持つのだろうか。
トーレ・アグバールの概要
- 所在地 :Avinguda Diagonal, 211, 08018 Barcelona, スペイン
- 設計者 :ジャン・ヌーベル
- 建設年 :2005年
- 用途 :水道会社ビル
- 構造 :鉄筋コンクリート
- 階数 : 地上38階 / 地下4階
- 高さ :144.4m
トーレ・アグバールはバルセロナのシンボルタワーである。
バルセロナ近郊の奇岩の山の形状と噴き上がる水の形をイメージした水道局のビル。光にきらめくガラスに覆われた炎と水がイメージカラーの美しいファサード。4,500個のLED照明によるライトアップで週末の夜には違う表情が楽しめます。
トーレ・アグバールの環境配慮とボトル型の形
トーレ・アグバールは環境への配慮を強く意識している。
外壁を覆う4500枚のガラスのブラインドは、設置された気温センサーと連動し開閉。
熱い夏は日光を遮り、冬は逆に日光を入れて、冷暖房エネルギーを最大限節約するように設計されています。
その形状をボトル型にしていることが、建物の環境的視点に大きく影響している。
風に有効なボトル型
ボトル型のフォルムは、圧力を均等に受け流すことができる。
ペットボトルやワインボトルでも圧力を抑えるために円形を用いているのと同様で、高層ビルでも風による荷重を受け流すために、円形のフォルムは有効である。
また四角の建物に比べ、ビル風が緩和され周辺の風環境が良好になりやすい。
内部環境に有効なボトル型
ボトル型のフォルムは、同じ床面積の四角い建物に比べ、表面積を小さくすることが出来る。
表面積が小さくなることは、熱の受け渡しをする内外の境界が小さくなるため、熱損失を最小限に抑えることが出来る。つまり空調エネルギーなどを最小限に抑え、快適な内部環境を作りやすい形と言える。
円の幾何学を有効に活用している。
ボトル型のまとめ
どうだろう。
ペットボトル・ワインボトル・高層ボトルには、それぞれ近しい物理的原理と異なる背景が重なり、それぞれの形が決まっていた。いずれも共通点は円の幾何学に依っているということであり、円により、内部もしくは外部との関係を良好にするものであった。
特に圧力に対する対応としてはどちらも共通で、やはり近しい物理的法則が背景にある上での形の相似性であった。
最後に、試しにボトルが建物になった姿を描いてみた。(野又穫氏風)
どうだろう。
もし街角で建物を見つけたら、この建物は風に強く、周辺に対する影響も和らげる。内部環境も優れ利用者はとても快適だろう!
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