我が家は一軒家だが、ときどき、家の外壁にヤモリがくっついている。ヤモリは家の守り神。家にいてくれることはいいことだ。
そんなことを思っていたら、この間、ついに家の中に入ってきた。恐る恐る捕まえてみると、これがどうして、なかなかかわいい。せっかくなので、いろいろ調べてみることにした。
ヤモリとイモリの違い
よく混同するのがヤモリとイモリの違いである。
そもそもが
- ヤモリは「爬虫類」
- イモリは「両生類」
と、生物学的に全く違う生物なのだが、① 名前が似ている、② 恰好がそれとなく似ている。
この2点からどうにも混同されやすい。大きな特徴として、ヤモリ(二ホンヤモリ)は灰色、イモリは黒と赤色。ヤモリは地上にいる、イモリは水の中にいる。これだけ覚えておけば、実物を見て間違えることはないだろう。
ヤモリは家守、イモリは井守、と書く。
家を守る神様と、井(水田)を守る神様。なるほど理に叶ったネーミングであった。その他、イモリは毒を持っていたり、鱗を持っていたりと、様々な違いがあるが、今回はヤモリについて追及するため、ここでの深追いは割愛する。
ヤモリの体について様々な特徴
今回捕まえたヤモリは、正式名称はニホンヤモリという。名前の割に、実はユーラシア大陸からの外来種らしく平安時代に日本に定着した、というのが通説。一般的に10〜14cm程度が一般的とのことで、今回、家に訪れた子はおそらく7cm程度。…子供。
顔を近づけてみると、案外、愛くるしい顔をしている。
ヤモリの目のは縦長スリット
目はまん丸でクリクリだが、黒目は細く、猫目である。猫目の、秘密はヤモリの夜行性にあるらしい。
明るいところでは光量を調整するために目が縦長のスリット状になり、暗いところでは瞳孔が開く。
おまけに二ホンヤモリには瞼がない。確かによく見ていても、瞬き一つしない。瞼がないので目を開けたまま眠るらしいが、その時、この瞳孔の動きによって、光を遮っているのだという。
なぜ横長でなく縦長なのか。建築的に考えると横ルーバーではなく縦ルーバー。浅い日差しを有効に遮る形…?
そうではなく、縦長の瞳孔は、長円瞳孔(ちょうえんどうこう)と呼ばれる構造で、円形の瞳孔よりも早く開閉できることに加え、同時により大きく開くこともできるらしい。確かに、横長の形だと少なからず重力の抵抗があるため、上下で力のかかり方が異なることから、複雑な構造になりそうである。縦長であれば左右に均等な構造をつくることができる。
さらに一説によると、草むらや茂みなどのは縦長の障害物が多く、縦長のスリット状の瞳孔が見通しがよく、かつ障害物を有効に遮ることができ、有利なのだとか。
光だけでなく、複合的な要因で形状が決定されているということだ。
ヤモリの皮膚は地割れと同じ構造
ヤモリの体は固い鱗に覆われている。鱗は灰色がベースで斑点状に黒や白がまだらに並んでいる。形も魚の重なり合っている鱗とはやや違うように思う。気になって調べてみた。
魚類の真皮の内部に発達した骨格(皮骨)でハイドロキシアパタイト(リン酸カルシウム)を主成分とした鱗と違い、爬虫類の鱗は、表皮起源である。基本的には硬質タンパクのケラチンを主体とした角質で構成されているため角鱗と呼ばれるらしい。
魚類の場合、皮膚の表層に板状の鱗が埋め込まれた構造になっているが、爬虫類では、皮膚の一番外側の厚く角質化した層が、動きやすいように小片に分割されたものとのこと。
これはつまり、固くなった皮膚が物理的な力をうけ割れることで、硬さと柔らかさを両立しているということだ。
肌の割れたパターンとその生成原理からして、これは地割れのパターンと類似している。地割れは乾燥による張力からパターンが出現するが、ヤモリの鱗は、おそらく、運動により皮膚にかかる張力が絶えず変わることからパターンが最適化されるものと思われる。力の種類は異なるが、力が大きくかかったところから、割れのパターンが出現するところは、両者同様であると思われる。(僕は生物学者や物理学者ではないので、あくまで類推でしかないが。)
ちなみにこのページのヤモリのスケッチには地割れのパターンをphotoshopを用いて重ねてみた。
さらに、魚類では鱗は生きた組織に覆われているためそのまま成長するが、爬虫類は鱗の下にだけ生きた組織があるため、周期的に皮下で新しい角質が生成され、外側の古くなった部分は新しい角質層との間の層で剥がれて脱落する。これが脱皮に当たる、ということだ。ヤモリ科などのように、鱗が重なり合わず粒状になっているものもある。(他の主な種は、隣の鱗との連結部はヒンジ状の構造になっていて、柔軟性を高めている。)ちなみに、トカゲやヤモリには鱗が非常に剥がれやすく、捕まったときに鱗をむいて逃げる種類もあるそうだ。
ヤモリは肌の色が変化する
もう一つ、ヤモリは肌の色を変えることができる。
ヤモリには、赤・青・黒の3つの色素を持つ細胞がある。それぞれの細胞の見えやすさを調節することで肌の色をコントロールするらしい。
僕が見たヤモリは灰色に黒い斑点がランダムにあるものだった。確かに状況により色が濃くなることがあった。
…ヤモリ… 想像以上に奥が深い生物である。
ヤモリは縁起の良い家の守り神
さらに調べを進めると、人には害のない生物で、それどころか、家の周りの害虫を食べてくれることから、家を守る、「家守」というのが名前の由来らしい。だから縁起がよいといわれる。
ひょっとしたら、こいつも我が家を守ってくれていたのかもしれない。それも自らの危険を顧みず、家の中に侵入してまでして…!
次の日、子どもにヤモリを見せてあげた後に、庭に逃がしてやった。この家に住んで3年目、子どものやもりはこの家と成長していて、きっと大人になったら立派な「家守」となって、僕ら家族を守ってくれるに違いない。
追記
この記事を書いてからしばらくして(2018年8月)、僕は「ヒョウモントカゲモドキ=レオパードゲッコー、通称:レオパ」というヤモリを飼い始めた。その後、すっかりレオパの魅力にはまり、すっかり多頭飼いするようになってしまった。
家に迷い込んだニホンヤモリは、どうやら僕に新たな楽しみを運んできてくれたようだ!
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